2015.1.4 日本経済新聞より
(前略)
史上2人目の6階級制覇を果たした地元の英雄、
マニー・パッキャオ(37)を記念した「ピープルズチャンプ(民衆の王者)ジム」。
扇風機すらないトタン造りの室内で十数人が練習に励む。
17歳のヴィンス・パラスもその一人だ。
ゴミ拾いで家計を助ける極貧下で育った。
小学生の時、偶然出会った英雄に父親の目の治療の援助を願い出た。
初対面なのに費用負担を快諾してくれた。
ジムに入ったのは感謝と憧れからだ。
「練習しなさい。
いつも謙虚で行儀よく、親切に」
掛けられた言葉を宝物にサンドバッグをたたく。
公用語の英語を生かし、
フィリピンは人口の1割の1千万人が海外へ出稼ぎに散らばり、
送金で親族の生計を支える。
クウェートで看護師として働くアーロン・ディー(31)は
仕事の合間にパッキャオをたたえる詩を書きためて自費出版した。
「忍耐強く、絶対逃げ出さない。あんな人間になりたい」
その拳は時に戦火まで止める。
ミンダナオはイスラム武装勢力と国軍の紛争が半世紀近く続いてきた。
宗教の溝は容易には埋まらないが、
地元の英雄の応援は別だ。
「彼の試合当日は敵も味方も観戦に夢中になる」
(国軍大佐のレスティトゥート・パディラ=52)
パッキャオも貧農に生まれた。
両親は幼い頃に離婚。
中学校を中退し、路上でたばこを売って母を助けた。
草ボクシングを始めたのも少額の賞金を稼ぐためだ。
16歳のプロデビュー戦のファイトマネーはわずか100ペソ(約260円)だった。
米誌フォーブズによると昨年の収入は1億6千万ドル(約190億円)。
同5月の「世紀の一戦」の対戦相手、フロイド・メイウェザー(38)の3億ドルに次ぎ、
世界で2番目に稼ぐアスリートになった。
成功した今も自分の原点を忘れない。
試合前は必ず地元のジムで汗を流す。
先月6日、自らが建てた教会で聖書片手にパッキャオは説いた。
「寛容こそが大切です」
自身も酒と賭け事に溺れた時期を周囲の助けで乗り越えた。
優しさに満ちた声に約600人が聞き入った。
(中略)
かつて政治の混迷で経済発展から取り残され
「アジアの病人」と呼ばれた同国。
近年は域内屈指の高成長に沸き、
2011年に5割強だった中間層比率が20年には7割に迫るとの予測も。
世界を制した英雄に1億人が託す夢や理想は、
豊かさへ手を伸ばす今のアジア全体に通じる。
(了)
フィリピンの英雄、パッキャオは、いまや大統領有力候補だそうで。
TIME誌は、Great Hope と表現しています。
なんといっても、彼の言葉がすばらしい。
「練習しなさい。
いつも謙虚で行儀よく、親切に」
「寛容こそが大切です」
見習いたいものです。
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